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大阪高等裁判所 昭和24年(を)3591号 判決 1950年6月08日

被告人

小正春吉こと

呉正俊

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪地方裁判所に差し戻す。

理由

弁護人当別当隆治の控訴趣意第三点について。

原判示第一によれ被告人はいわゆる幽霊人口の方法で山田村役場配給係を詐つて本来被告人が交付を受けてはならない通帳の交付を受けたというのであるから、それによつて食糧の二重配給の事実があつたかどうかを問わず、詐欺罪は成立する。所論は最高裁判所の判例を引用しているが、おそらくそれは原審挙示の証拠によると、従来被告人方にいた者が一時的に他所へ行つた場合のように見え、原判文を以てしては勿論、証拠と対照しても詐欺罪が成立するかどうかわからないという事案に関する判例であつて本件には適切でない。

右の説明のように原判示第一の事実に関する論旨は理由がないけれども、原判示第二の事実について案ずるに、起訴状における第二の事実は被告人は昭和二十三年九月二十三日頃山田村役場において、同人に対して国山文吉外十一名の転出証明書二通を示し同人等が山田村に居住し同村に転入するものである様に申偽き配給係員上島正治を欺罔し右国山を世帯主とする家庭用主要食糧購入通帳一通を交付させ、これを騙取したものであるというのであつて原判示第二のごとく「被告人方の人夫を使として」転出証明書「及び家庭用主要食糧購入通帳」を提出し「新に家庭用主要食糧購入通帳を発行する代りに前住所地における前記通帳に住所の移動訂正をし転入の検印を為したものを転入地における有放な通帳として交付せしめ」というのではない。ところで起訴状における公訴事実は訴因を明示してこれを記載すべく、訴因を明示するにはできる限り日時場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならぬのであつて、公訴事実はこの訴因によつて特定するのであるが、その公訴事実の同一性を害しない限度において起訴状記載の訴因の追加変更をすることが許されその限度と手続によらなければ裁判所は起訴状記載の公訴事実以外の事実について審判することはできないのである。しかるに原審は右のように起訴状記載の公訴事実に対して慢然原判示第二のように裁判をしたのであるから、刑事訴訟法第三百七十八條第三号の場合に当り控訴趣意中この点に関する限り論旨は理由がある。そして原審はこの外第一事実と併合罪の関係にあるものとして処断しているから原判決全部は他の論旨に対する判断をまつまでもなく、破棄を免れない。

(弁護人当別当隆治の控訴趣意)

原判決ハ

被告人は昭和二十三年九月頃より大阪府三島郡山田村大字山田に於て山田川改修工事の請負工事をしている小山源三に雇われ同村所在の同人の飯場の世話をしていたものであるが、所謂幽霊人口の方法により余分に主食類の配給を受けようと考え同年九月初頃朝鮮人通称正夫から豊中市役所管ケ池出張所長発行に係る世帯主金本東九外同世帯員十七名に対する転出証明書及び大阪市港区長発行に係る世帯主国山文吉外同世帯員十一名に対する転出証明書を借り受けた上

第一、昭和二十三年九月十一日頃大阪府三島郡山田村役場に於て配給係上島正治に対し前記世帯主金本東九外十七名に対する転出証明書を提出した右金本東九外十七名が真実被告人の飯場に居住せず同人に転入するものでないに拘らず同人等が被告人の飯場に居住し同村に転入するものである様に詐り同人をしてその旨誤信せしめ因て金本東九を世帯主とする世帯人員十八名に対する家庭用主要食糧購入通帳一冊を交付せしめて之を騙取し

第二、同月二十三日頃被告人方の人夫を使として右山田村役場に於て配給係上島正治に対し前記国山文吉外十一名に対する転出証明書及び転出前の住所地に於ける家庭用主要食糧購入通帳を提出し前同様の方法に依り同人を欺罔し因て新に家庭用主要食糧購入通帳を発行する代りに前住所地に於ける前記通帳に住所の移動訂正をし転入の検印をなしたものを転入地に於ける有効な通帳として交付せしめて之を騙取したものである。

トノ事実ヲ(中略)認定シテイル。

第一点、第二点(省略)

第三点、原判決ニハ判例違反ノ違法ガアリマス。即チ食糧詐欺ノ事件ニ於テハ二重配給ニナラザル限リ詐欺罪ノ成立ヲ認メザルハ最近最高裁判所ノ判例ノ示ス通リデアリ、コノ二重配給ノ立証ガアリマセヌノデ此ノ点詐欺罪ニハナリマセヌ。尤モ本件ハ食糧詐欺トシテ起訴セズ通帳詐欺トシテ起訴シテアリマスケレド之ハ検察技術ノ問題デアリ両者ノ間差異ナイト思イマス。

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